Monday, November 15, 2010

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ジャイアンツに砕かれたフィリーズ時代の終えん (1/2)

20101025日(月)

 

ハワード(右端)が見逃し三振に倒れてフィリーズは敗退。中央は喜ぶジャイアンツのポージー【Getty Images

 激闘が続いたナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)は、最後の最後で「豪腕クローザー」と「4番打者」の対決という絵に描いたようなクライマックスを迎えた。

 3勝2敗と王手をかけたジャイアンツが、1点リードして迎えた第6戦の9回裏。2死一、二塁の場面で、今季48セーブのブライアン・ウィルソンと過去5年連続30本塁打以上のライアン・ハワードが一騎打ちを繰り広げたのだ。
 普段は尋常でないほど騒がしいフィラデルフィアのファンも、悲劇と背中合わせの修羅場に半ば声を失った。まるでシナリオで導かれたような緊迫のシーンに、記者席すらも静まり返った。
 最後はカウント2-3からの7球目。低めのスライダーを見逃したハワードに三振が告げられて、見ている者の胸を締め付けるような戦いは終わった。

「低いと思った。ハリオン(主審)がコールをとまどったくらいだからね。こんな形でシーズンを終えるのは本当につらい……
 ハワードは試合後に絞り出すようにそう語ったが、しかしあのスライダーは明らかにストライクだった。持ち味の100マイル(約161キロ)近い速球に頼らず、敵地の重圧下で最高の変化球を投げたウィルソンを誉めるべきだろう。

チャンスに沈黙したフィリーズ打線

 豪快さの権化のようなスラッガーが、最も大事な打席でフルスイングできぬまま三振。フィリーズらしからぬ結末と感じた人は多かったに違いない。だが一方で、それは今シリーズを象徴するようなシーンとも言えたのかもしれない。
 近年最高の好投手をそろえたチームの対決と言われたこのカード。投手力はほぼ同等としても、打力ではるかに上回るフィリーズが圧倒的に有利というのが前 評判だった。実際に上位、下位を問わず実績ある打者で敷き詰められたフィリーズ打線が、シリーズを通じて抑え込まれるというのは考え難いことではあった。
 それがふたを開けてみれば、チェイス・アトリー、ハワード、ラウル・イバネスというフィリーズの看板打者3人は合わせて打率2割3分8厘、1打点と低 迷。チーム打率も2割1分6厘と散々だった。特に得点圏に走者を置いた場面では、チーム全体で45打数8安打とまるで仕事ができなかった。

「チャンスは幾らでもあった。ただそこであと1本が出なかった」
 ジミー・ロリンズが認めた通り、第6戦でも3回(無死一、二塁)、5回(2死満塁)、6回(1死三塁)、8回(1死一、二塁)と得点機は繰り返し訪れ た。シリーズを第7戦へもつれ込ませる権利は、すぐ目の前にぶら下がっていたと言っていい。しかし、勝負強さで知られたはずのフィリーズの猛者たちは、再 三のチャンスにそろって沈黙を続けた。

ジャイアンツに砕かれたフィリーズ時代の終えん (2/2)

20101025日(月)

日替わりヒーローが現れたジャイアンツ

ナ・リーグ優勝決定戦のMVPには3本塁打を放ったロスが輝いた【Getty Images

「素晴らしいシリーズだったと思う。そしてジャイアンツが勝利を勝ち取ったんだ。それだけのことだ」
敗軍の将チャーリー・マニエル監督の終了後の言葉通り、過去リーグ2連覇のフィリーズが油断などから自滅したシリーズでは決してなかった。終わってみれば、ブルペンまで含めた総合的な投手力でジャイアンツが上を行き、「堂々と勝ち取った」シリーズだった。
 ティム・リンスカム、マット・ケーンの両輪はそれぞれ見事な投球を見せて存在感を誇示。さらに先発のジョナサン・サンチェスが3回で崩れても、以降に5 投手をつないでしのぎ切った第6戦は今季のジャイアンツを語る上で特にシンボリックだった。打線からもコーディ・ロス(3本塁打でNLCSのMVP)、フ アン・ウリベ (第4戦でサヨナラ犠飛、第6戦で決勝弾)、バスター・ポージー(第4戦で4安打)らの日替わりヒーローが誕生し、最低限の得点を確実に獲得していった。

■“ベースボールの真理を思い起こさせたシリーズ

 そしてその戦いの過程で、2010年版フィリーズはこれまで表面化していなかった意外な弱点をさらしていった。
 先発3本柱(ロイ・ハラデー、ロイ・オズワルト、コール・ハメルズ)とスタメンは確かに力強いが、控えとブルペンの薄さは顕著。今シリーズ中、代打で登場したフィリーズ打者たちは合わせて9打数0安打1四球に終わった。

 さらに頼れる救援投手が少ないという事実は、第4戦でオズワルトをスクランブル登板させてのサヨナラ負け、第6戦でのライアン・マドソンの2イニング目 の被弾につながった。大舞台で安心して起用できる選手が限られていたことが、最終的にフィリーズの命取りとなった感は否めない。
「ほんのわずかな違いで、結果はまったく異なるものになっていただろう。今日は敗れたけど、おれたちはそれでも最高のチームなんだ」
 試合後、静まり返ったクラブハウスの中央で、シェーン・ビクトリーノは胸を張ってそう語った。おそらく、その言葉通りなのだろう。ただその一方で、2010年のNLCSは、はるか昔から常に不変のベースボールの真理を見ているものに思い起こさせてもくれた。

「優れた群は、個を制す」。そして、「好投手は強打者を打ち破る」。
 強打フィリーズの顔役・ハワードが、今季セーブ王のクローザーの前にぼうぜんと立ち尽くした映画のような結末は永遠に語り継がれて行くことだろう。
 ジャイアンツが一丸となって挑んだ「ジャイアント・キリング」は、こうして完遂。翌日のフィラデルフィア地元紙には「不完全なエンディング(An  Imperfect Ending)」と残酷な見出しが踊り、同時にフィリーズがナ・リーグに築いたダイナスティもひとまず終焉(しゅうえん)を迎え ることになったのだ。

ジャイアンツ対レンジャーズは歴史的なシリーズ (1/2)
ワールドシリーズ見どころ

20101027日(水)

球史に残るような大熱戦に期待

レンジャーズ、第1戦の先発は大舞台で無類の強さを発揮する左腕クリフ・リー【Getty Images

 番狂わせシリーズの開幕だ。ともにディフェンディング・チャンピオンを倒してのワールドシリーズ進出。レンジャーズが勝てば、前身のワシントン・セネ タース時代から球団創設50年目の初優勝。ジャイアンツがものにすれば、ニューヨークにフランチャイズを置いていた1954年以来、そして西海岸移転後で は初めての優勝となる。どちらが勝っても歴史的なシリーズはストーリー性にもあふれている。所属する日本人選手がいないこともあってなじみの薄い両チーム かもしれないが、チームカラーにも特徴があり、熱狂的な地元の声援をバックに、球史に残るような大熱戦が期待できる――

 レンジャーズはメジャートップのチーム打率(2割7分6厘)を誇り、ア・リーグ優勝決定戦(以下ALCS)でもヤンキース投手陣から6試合で合計38得 点を奪った強力打線が売り物だ。一方のジャイアンツはメジャートップのチーム防御率(3.36)をマーク、ポストシーズンでは1試合平均2.9失点しか許 していない強力投手陣が支える。しかし、だからといって『打のレンジャーズ』対『投のジャイアンツ』という単純な図式にはならない。レンジャーズはこれま でポストシーズンで負けなしの7連勝を記録している大黒柱クリフ・リーを始め、投手陣も安定しているからだ。しかも、守備も堅実。また、スピードもあり、 状況に応じたバッティングのできる打者も多く、ただ打つだけではない柔軟性のある攻撃力を持っている。

先発が7回まで試合を作れるか!?

 その打線の火付け役がメジャー2年目、一番を打つ22歳のエルビス・アンドラスだ。ポストシーズンの全試合で安打を放ち、7盗塁を決めている。昨シーズ ン、母国ベネズエラ出身でゴールドグラブ賞11回の名手オマー・ビズケル(現ホワイトソックス)に指導され、守備だけでなくすきを突く走塁も身につけてい る。このアンドラスが好調を持続するようなら打線も引き続き活発な攻撃をするに違いない。

 9月に肋骨(ろっこつ)を折り、痛みと戦いながらALCSで4本塁打を打ち、MVPに輝いた主砲ジョシュ・ハミルトンはチームの士気を高めている。「この時期に100パーセントの状態でプレーしているヤツはいない」という闘志が、チームメートを奮い立たせる。
 このほかにも、ALCSで打率3割3分3厘を打ったチームリーダーのマイケル・ヤング、当たりが出始めたブラディミール・ゲレーロ、ポストシーズン5本塁打のネルソン・クルーズなどタレントぞろい。どこからでも一発が飛び出す怖さを秘めた打線だ。

 投手陣はここまでのポストシーズンで3試合に登板、いずれも2ケタ三振を奪い、3勝を挙げているリー以外にも、ALCSで2勝した元広島のコルビー・ルイスが好調だ。もうひとりの先発C・J・ウィルソンは制球にムラがあるのが気がかり。
 ブルペンは21歳、100マイル(約161キロ)の剛球ネフタリ・フェリスがクローザーを務める。きん差での登板で依然として不安は残るが、ALCSで 2試合投げたことがプラスに働くに違いない。中継ぎ陣はバラエティに富んでいるだけに、先発が7回まで試合を作れば、かなりの確率で勝ちが期待できる。

ジャイアンツ対レンジャーズは歴史的なシリーズ (2/2)
ワールドシリーズ見どころ

20101027日(水)

ジャイアンツは強力投手陣頼み

ジャイアンツのエース右腕・リンスカムには万全の体調でマウンドに上がることができるか?【Getty Images

 一方のジャイアンツはどうしても強力投手陣頼みということになる。先発の3本柱が本来の投球をすれば、得意のもつれた展開に持ち込める。第1戦でリーと 対決するエースのティム・リンスカムはナ・リーグ優勝決定シリーズ(以下、NLCS)でも完全試合男ロイ・ハラディと2度対決して1勝1敗。第6戦には8 回にセットアップマンとして登場、先頭打者を三振に打ち取ったが、その後連打されて降板した。やはり、疲れがみえる。ファーストボールは走りが悪く、決め 球のチェンジアップにもキレが欠けている。絶好調のリーとは2度の対決ということになるだろうが、苦戦は免れないだろう。

 第2戦以降はNLCSと同様、パワーのあるマット・ケーン、威力のあるスライダーを投げる左腕ジョナサン・サンチェスで回すことになるはずだ。レン ジャーズ同様、できる限りディープな回まで引っ張りたい。ブルペンの質は高いが、理想は先発のあとにすぐポストシーズンでも調子のいい守護神ブライアン・ ウィルソンにスイッチしたいところだ。

ジャイアンツの不思議な力

 打線はレンジャーズに比べると、かなり見劣りがする。NLCSでの6試合で合わせて19得点しか挙げられなかった。一番当たっているのはNLCSで3本 塁打を放ってMVPを獲得したコディ・ロスだ。しかし、大きな期待はかけられない。あくまでも伏兵的選手だ。ジャイアンツにはそういう選手が多い。 NLCSで優勝を決める一発を放ったフアン・ウリベにしても、24本塁打を打ってはいるが、あくまでも脇役だ。

 最も信頼の厚い3番オーブリー・ハフは2部門でチームトップの成績を残してはいる。しかし、それでも26本塁打、86打点と寂しい数字だ。ちなみにワー ルドシリーズ進出チームで30本塁打、90打点以上の選手がいないチームは90年のレッズ以来の珍事となる。(もっとも、レッズは優勝したが)このチーム はそれほど打てない。だから、必然的に新人の4番バスター・ポージーに期待がかけられるが、大一番のリードに神経をすり減らしているので、爆発力を求める のは酷だ。しかし、ジャイアンツには不思議な力がある。機動力に優れているわけでもないのに、数少ないチャンスを得点に結びつけることができるのだ。レ ギュラーシーズンでも、ポストシーズンでも、そうやってものにしてきた少ない得点を投手陣が守り切り、勝ってきた。その不思議なパターンをワールドシリー ズでも繰り返すことができるだろうか。

 過去、サンフランシスコで行われたインターリーグではジャイアンツが無傷の9連勝をマークしている。ホームフィールド・アドバンテージに恵まれたジャイ アンツが2連勝すれば、シリーズはもつれて第7戦でジャイアンツ優勝の可能性もあるが、1勝1敗だとレンジャーズが地元で初優勝を飾るかもしれない。いず れにしても、好投手が続々と登場し、どちらかが優勝とは無縁だった半世紀の長い歳月にピリオドを打つエキサイティングなシリーズになるだろう。

ジャイアンツ、理屈を越えた快進撃
ワールドシリーズ序盤の戦い

20101029日(金)

ジャイアンツがまさかの快進撃

ワールドシリーズ第2戦は地元のジャイアンツが9-0で大勝し連勝を飾った【Getty Images

「このチームがここまで勝ち進んでくれるとは思わなかったな……
 ワールドシリーズ開幕当日、サンフランシスコ空港で捕まえたタクシーの運転手がうれしそうな笑顔を浮かべてそう語っていたのが強く印象に残る。
「バリー・ボンズを中心にワールドシリーズ進出を果たした2002年と比べても、今季の方が盛り上がりは上だね。近年で最も地元民に愛されているチームと言って良いかもしれない」
 ……その運転手の言葉は、サンフランシスコで数日を過ごせばすぐに納得できてしまう。駅でもレストランでも道ばたでも、本当に多くの人々が「ゴー・ジャイアンツ!」を合言葉にハイタッチを交換している。
「僕たちのファンは最高だ。素晴らしい雰囲気を毎日創りだしてくれる。スタジアムに来るのが楽しくて仕方ないよ」
 コディ・ロスはそう語っていたが、確かに筆者のワールドシリーズ取材歴(さほど長いわけではないが)の中でもこれほど街とチームの一体感を感じるのは今回が初めてである。

 その尋常ではない盛り上がりは、プレーオフ開始時には無印だったチームが予想を覆して勝ち続けていることに端を発しているのだろう。
 アンダードッグの成り上がりに興奮するのは、どこの国のファンでも同じ。そしてそのまさかの快進撃は、ワールドシリーズ突入後も続いている。
 第1戦ではプレーオフで無敵の投球を続けていたレンジャーズのクリフ・リーを、ジャイアンツ打線が見事に攻略。左腕エースに8安打(自責点6)を浴びせてマウンドから引きずり下ろし、11-7で勝利を飾った。
「わたしたちが3、4点以上取ることができるのは2~3週間に1度くらいのもの。それがたまたまワールドシリーズ第1戦だったというだけさ」
 試合後にオーブリー・ハフはジョークを飛ばして記者たちを笑わせたが、実際にジャイアンツは打線の非力さを揶揄(やゆ)されがちなチームである。今季の 総得点はリーグ9位。この日も3番を打ったのは今春にメジャーに上がったばかりの新人バスター・ポージーだった。4、5番打者はともに今季中に古巣から解 雇された後にジャイアンツに拾われたパット・バレルとコディ・ロスだった。
 そんな寄せ集め打線が、「現代のサンディ・コーファックス」とまで呼ばれるようになった投手を滅多打ち。ジャイアンツの7得点以上は9月25日以来だったと記せば、リー相手の爆発がどれだけ異常なことだったか分かっていただけるだろう。

理屈を越えた展開

 さらに続く第2戦でも、打線は8安打ながら9点を奪った。貧打のはずのジャイアンツが、ワールドシリーズの2試合で20得点。加えて先発のマット・ケーンが8回2死まで無失点を続け、プレーオフ突入以来21回1/3連続無失点を記録するというおまけもついた。
「ケーンは強打者たちを相手に重要な場面で良い投球をしてくれた。そして同時に幸運にも恵まれることができた」
 試合後のブルース・ボウチー監督の言葉にあった「幸運」とは、5回表に訪れた。0-0で迎えたこの回、先頭のイアン・キンスラーがとらえた打球はセン ターオーバーの大飛球。しかしボールはフェンスの一番上に当たり、フィールド内に跳ね返ったために本塁打にはならなかった。
 おかげで試合の主導権を相手に渡さずに済むと、その裏にはエドガー・レンテリアが何と9月4日以来となる本塁打を放ってジャイアンツが先制。以降も着実にリードを広げた末に9-0で圧勝し、これでシリーズ2連勝となったのだ。

 ジャーナリストの仕事とは、「物事のつじつまが合うように説明すること」。ただ現在のジャイアンツが展開しているミラクルランは、ほとんど理屈を越えていて、筋道立てて解説しようとすることは少々難しい。
 もちろん先発、ブルペンともに粒ぞろいの強力投手陣が躍進の最大の要因には違いない。ただ第1戦では相手に7失点を許しながら、ここまでプレーオフ通算 7勝0敗だった投手を打ちのめして勝利した。これでロイ・ハラデー、ロイ・オズワルド、コール・ハメルズ、そしてリーという名高い好投手のすべてにポスト シーズンで黒星を付けたことになる。

ボウチー監督「野球は全員でやるもの」

 さらにワールドシリーズでは、フレディ・サンチェス、フアン・ウリベ、エドガー・レンテリアら脇役が攻撃の軸として活躍。一般に重要視される1、3~5 番打者(アンドレス・トーレス、ポージー、バレル、ロス)がすべて打率3割以下ながら、これだけの得点を重ねていることは驚異的と言って良い。
「多くの選手たちが日替わりで貢献してくれるのをみるのは楽しい。目標とする場所にたどり着くには25人の力が必要なんだ」
 ボウチー監督は第2戦後に誇らしげに語っていたが、実際に「野球は全員でやるもの」というきれいごとに近い決まり文句を、これほど見事に体現してくれて いるチームは珍しい。そしてスター不在でも常にハッスルを忘れない2010年版ジャイアンツを、この美しい街の人々は本当に一生懸命にサポートしている。
 地元タクシーの運転手に限らず、アメリカの誰も「このチームがここまで勝ち進んでくるとは思わなかった」。しかしときにスポーツの世界では、理屈を越えた強烈な力が特定のチームを後押しすることがある。
 そしてキンスラーの弾丸ライナーがフィールドに跳ね返り、レンテリアの打球がスタンドに飛び込んだ今夜の中盤イニングごろには、「Mojo(魔法)」という言葉も記者席を飛び交い始めた。
 もちろんシリーズはまだ2戦が終わったのみ。サンフランシスコのファンの元を離れ、ジャイアンツがテキサスまで勢いを持続できるかどうかはわからない。 だがすでに相手の先発1、2番手を撃ち落とし、しかも魔法じみたケミストリーを帯びた彼らが、今後に失速する姿を想像するのは難しい。
 だとすれば、もう疑うべきではないのかもしれない。
次にボウチー監督と選手たちがサンフランシスコに戻って来るとき……その小脇に優勝トロフィーが抱えられていたとしても、もう誰も驚くべきではないのだろう。

56年ぶり6度目のワールドシリーズ制覇

2010112日(火)

56年振りとなる世界一

ジャイアンツが56年ぶりにワールドシリーズを制覇した【Getty Images

 静まり返った敵地レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンに、悲願を成し遂げたジャイアンツ選手たちの雄叫びが響き渡った。
 実に1954年以来56年ぶりとなる世界一を達成――。息詰まる投手戦となったワールドシリーズ第5戦も、勝ち残ったのはやはりジャイアンツだった。

 3-1で逃げ切って試合が終わった瞬間。優勝投手となったブライアン・ウィルソンの元に全米的にはまだ無名の選手たちが次々と駆け寄った。
 ティム・リンスカム、マット・ケーン、マディソン・バムガーナーら、すべて27歳以下の先発投手たちはここで初めて年齢に似つかわしい無邪気な表情を見 せた。攻守にチームを支えた新人バスター・ポージー、プレーオフ通算5本塁打のコディ・ロス、そしてシリーズMVPを獲得したエドガー・レンテリアらも、 それぞれ最高の笑顔を浮かべた。

「特定のヒーローはいない。なぜなら全員がヒーローだから」
 ロスは後にそう語ったが、実際に「全員野球」という気恥ずかしくなるような言葉がこれほど似つかわしいチームはほかに存在しない。
 この無名集団の前に、レンジャーズは敗れた。顔ぶれだけを見比べて、ジャイアンツの不利を予想した多くのファン、メディアたちも敗れた。しかし、いったい誰がジャイアンツのこれほどの圧勝を予想できただろう?

日替わりヒーロー

ワールドシリーズのMVPを獲得したレンテリア【Getty Images

「毎試合、違った選手たちが貢献してくれた。わたしたちは(クリフ・)リーですら2度も打ち破った。そんなことができるとは誰も思わなかっただろう。しかしウチの投手たちがわたしたちにチャンスを与えてくれたんだ」
 試合後のブルース・ボウチー監督の言葉は、ジャイアンツの快進撃の真実を分かりやすく言い当てている。
「先発投手が好投し、守備が堅実に支え、必要なだけ得点して逃げ切る」

 今プレーオフのジャイアンツは、ほぼ毎試合をそんな勝利の方程式に倣いながら戦い抜いた。地区シリーズ、優勝決定シリーズで挙げた7勝のうち6勝は 1点差ゲーム。打線が7点以上を挙げたのはワールドシリーズ1、2戦のみで、それ以外はすべてロースコアの接戦を制し続けていった。
 特にリンスカムとリーが一騎打ちを繰り広げ、6回まで両チームがゼロ行進を続けたワールドシリーズ第5戦は象徴的なゲームと言えただろう。

 0-0で迎えた7回表にレンテリアが決勝の3ランを放ち、ジャイアンツは再び接戦を勝ち切った。第2戦に続いて決勝弾を放ったレンテリアが、結局はシ リーズMVPを受賞。さらにレンテリア以外にも、フレディ・サンチェス(第1戦で3二塁打)、フアン・ウリベ(計5打点)、ポージー(第4戦で貴重なダメ 押し弾)ら、今シリーズの打撃面の殊勲者を探して行ったら枚挙に暇がない。
 次々と日替わりヒーローが飛び出す様は周囲の想像を越えていた。良質なケミストリーは、確かに印象的だったと言える。

ジャイアンツ、新たな黄金期の可能性 (2/2)
56年ぶり6度目のワールドシリーズ制覇

「優れた投手力は優れた打撃を凌駕する」

第4戦で8回無失点の好投を見せたルーキー左腕のバムガーナー【Getty Images

 だが……、それもすべて、投手陣が毎日のように作ってくれた土台があればこそである。第2戦では、ケーンが8回途中まで4安打無失点の快刀乱麻。さらに 第4戦では、21歳の怪童バムガーナーがケーン以上に完ぺきな投球(8回3安打無失点)を見せて殊勲者となった。そして第5戦では、真打ち・リンスカムが リーに投げ勝ってシリーズに幕を引いた。

「ウチは先発にもリリーフにも、いつでもストライクが投げられる上質な投手がそろっているからね。投手陣の層の厚さではどこにも負けないよ」
 抑えのウィルソンがそう語った通り、優れているのは先発ローテーションだけではない。プレーオフを通じてハビエル・ロペス、ジェレミー・アフェルト、セルジオ・ロモ、そしてウィルソンらが効果的な仕事を果たし続けた。
 結果として、ジャイアンツのチーム防御率は2.45。シーズン中はアリーグ1位のチーム打率を残したレンジャーズ打線も、今シリーズ打率1割9分と結局はまるで歯が立たなかった。

 NLCS終了時にも言及した通り、「優れた投手力は優れた打撃を凌駕(りょうが)する」。そして特に、「プレーオフはディフェンス力次第」。だとすれ ば、エースのリーとクローザーのネフタリ・フェリス以外の投手陣はやや格落ちのレンジャーズが敗れても、私たちは驚くべきではなかったのだろう。

主力となった生え抜きの先発4本柱

 さらに、こんな結論にもたどり着く。ジャイアンツ投手陣の総合力が今プレーオフチームの中で最高級だったとすれば……、そもそも彼らを「ジャイアント・キラー」などと呼ぶべきではなかったのかもしれない。
 地味でも、大物スラッガーが不在でも、致命傷ではない。優れたディフェンスに裏打ちされたジャイアンツこそが、今季のベストチームだった。投手絡みの快 記録が続出したことから「ピッチャーの年(the year of pitcher)」と言われた2010年は、それに相応しい形で終焉(しゅうえん)を迎えたと言っていい。

 そして最後に……、オーブリー・ハフが残したこんな言葉を紹介したい。
「これだけ優れた若手投手がそろっていて、さらにバスター(・ポージー)という捕手もいるんだ。このチームはしばらくの間、特別なチームであり続けるかもしれないね……
 不利と予想されたシリーズを立て続けに勝ち抜き、近年にない痛快な形でジャイアンツは新王座に就いた。そしてその主力となった生え抜きの先発4本柱(リ ンスカム、ケーン、バムガーナー、ジョナサン・サンチェス)は、そろって2012年まで契約を残している。ならば、おそらくこれで終わりではない――

 56年ぶりに壁を破ったジャイアンツの行く手に、新たな黄金期の可能性すらうっすらと見えてきているのである。

リンスカム、リー、ともに無念の途中降板

昨日のワールドシリーズ第一戦、一番驚いたのは「熱い武田一浩」だった。いつも補導員につかまった不良少年みたいな拗ねた口ぶりで解説をしている武田一浩が、実に前向きで、よくしゃべる。現地の空気に触れて、上気していたのだろう。この人はここ12年解説に味が出てきた。アナウンサー泣かせの斜に構えた姿勢は生来のものだろうが、その裏にある野球好きの心、とりわけ「大リーグファン」のマインドが、出てき始めていた。そして彼はその性格ゆえか、人が気がつかないことを良く発見する。昨日は、AT&TパークのSF側のブルペンの一つのホームベースがゆがんでいることを発見した。だから投手はそっち側を使わない。こういう人は高い金を払って現地に派遣する価値があると思う。
さて、リンスカムとクリフ・リー、注目の投げ合いである。


リンスカムが緊張しているのは傍目にもわかった。球が意のままに行かない。この投手は強気が身上だから、コントロールが定まらないと攻めることができない。案の定売り出し中のアンドラスに安打を打たれ、あっという間に失点。次の回も失点した。調子が悪そうだ、と武田一浩。

リーは堂々たる千両役者と言う感じで、ゆうゆうと相手を抑えていた。本人も二塁打を打っていたし、役者が違うという感じがした。しかし、散発とは言え12回に打たれた安打の当たりが良すぎる。すべてジャストミートされている感じ。いつもと同じように見えて、球が走っていなかったのだろう。
5回先頭のリンスカムを打ち取ってからリーは、立て続けに安打を打たれた。炎上するリーというのは、最近記憶にない。自慢のはずのコントロールも乱れ四球も出した。火だるまで降板。彼が出したランナーは全員帰ってきてしまった。
これで調子を上げるかと思われたリンスカムも6回途中で降板。ともに無念の思いを抱いたワールドシリーズ初戦だった。
他の選手ではゲレーロの動きがひどく悪かったこと、ポージー、ベンジー・モリーナの両捕手が落ちついていること、そしてウリーベが調子に乗っていることがわかった。
乱戦だったが非常に面白かった。トニー・ベネットの歌は二つとも大したものだったし、球場の盛り上がりも良かった。「特別の戦い」の演出がうまいな、と思った。
二人は恐らく第5戦で再びまみえるだろう。次は素晴らしい投手戦を見たい。
 

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